吉野の水と風土が育てた「吉野手漉き和紙」
奈良県吉野、国栖(くず)の里。清流を囲むように家が並ぶのどかな光景には、どこか懐かしさを覚えます。古代から続く歴史が、今もなお静かに息づいているからでしょうか。

ここは、ものづくりの里として知られ、吉野手漉き和紙は1300年の歴史を誇ります。当時、後に天皇となる大海人皇子がこの地を訪れ、紙作りを伝えたという説も。
原料となる楮(こうぞ)の皮は、寒中に澄み切った水にさらす必要があり、吉野の気候と水の美しさが良い紙づくりに適していたからだと想像できます。
今では数軒の工房が伝統を受け継ぎ、そのうちの一軒である「福西和紙本舗」では、6代目の福西正行さんが、忠実に技術を伝承しています。

「これが本物の吉野の和紙」
福西さんは言います。
「昔から何ひとつ変えていない。本物の和紙を作るには、昔と同じ技法でやらんと」。
福西和紙本舗の和紙は、現代では考えられないほどの手間暇をかけて作られています。
楮の伐採から始まり、原木蒸しや川晒し、天日干しなど10以上の工程を経てやっと紙の材料ができあがります。そこから手漉きをし、天日で乾燥させて紙が完成するという、正真正銘の伝統工芸。
もちろん、材料もすべて自然素材。糊の役割を果たすのも樹皮、色付けも草木染めです。(撮影時は、桜の樹皮を焚きだした染料でピンク色に染められていました)

厚さを均一にするのが最も難しく、職人の腕の見せどころです。1枚1枚手で漉いていくため、多くても1日200枚が限度なのだそう。
美しく、耐久性に優れた紙
一切の妥協を許さず創作される貴重な紙。使い道は、掛け軸の裏打ちなどの表装用が主ですが、国宝や重要文化財の修復にも使われています。ルーブル美術館や大英博物館などでも重宝されているそうです。

出荷前の検品はお母様の仕事。熟練の目利きが光ります。家内制手工業で作られた和紙が、世界に羽ばたいていくのです。
また、最近はインテリアに利用する人も増えているとか。
掛け軸サイズの紙なら、白紙で1枚300円~、草木染めのもので1枚1,500円~と手頃なので、部屋のアクセントに取り入れてみるのもオススメです。

そして、ぜひチャレンジして欲しいのが「手漉き和紙体験」。
吉野小学校の児童は皆、自分の卒業証書を手漉きするのだそうです。
工房での手漉き和紙体験では、体験用の小さな木枠を使い、ハガキ8枚か証書サイズ1枚を漉くことができます。花や葉っぱなどのモチーフ、草木染めの染料などを使い、オリジナルのデザインを作ってみてください。
※体験料1人1,500円、10名以上で1週間前までに要予約
