昔ながらの風景にたたずむ築約150年の古民家
奈良県宇陀市室生深野地区。この地の魅力に心酔し、2014年秋「ささゆり庵」という宿をこの地にオープンさせたのが貿易商を営む松林哲司さん。築約150年の古民家を茅葺き屋根に改修した、一棟貸しの宿です。
宿泊者が集える昔ながらの囲炉裏や、隠れ家のようなロフト、隣にある山人庵(やまとあん)には珍しい壷風呂。ネット環境が整ったビジネスセンターも備えています。
松林さんをここまで惹きつけたのは、日本の原風景ともいえる“里山”の風景。日本人がどこか懐かしいと感じる景色、たとえば空を茜色に染める朝焼け、雲海たなびく峰、紺碧の宵闇が静かに時を刻む、そんな日本の四季折々の姿です。

海外からのお客様にも知ってほしい日本の本来の姿
棚田が米を豊かに実らせ、人々の生活が自然と一体となったこの景観は、人の営みが育んだ美しい里を日本全国から選ぶ「にほんの里100選」にも選出されたほか、里山を象徴するササユリを保護し、増やそうという地区の運動は「ユネスコの未来遺産」にも登録されています。
「ささゆり庵」の庵主である松林さんが杞憂するのが、その景色を分断する無粋な「電線」でした。松林さんは電柱のある土地を購入し、市役所に出向いては地区すべての電柱の完全地中化を訴え続けているといいます。日本の街では今や当たり前の電線。だが、松林さんはこう訴えます。
「電柱のない日本の原風景が残る場所にして初めて、この地区の底力が出てくる。海外からの観光客に日本の本当の美を分かってもらうためには中途半端なやり方ではダメなんです」。

本当に美しい日本がある場所とは・・・
観光地で見る歴史的な建築物や文化財だけが日本ではない、と松林さんは言います。
「本当に美しい文化が残っているのは、暮らしに息づかいが感じられる田舎。山、海、空にこそ日本の美があるのです」。人々の暮らしの中で、ひそやかに受け継がれてきた景観にこそ、美が宿る――そんなことをささゆり庵からの眺めは教えてくれます。
「こんな素晴らしい場所で仕事をさせてもらって」と毎朝、お天道様に拍手を打って自然への感謝を表すことで1日が始まるという松林さん。自然への畏怖と感謝の気持ちを持っていた古来からの日本人の姿や、暮らしがここにはあるのです。

INFORMATION
- 棚田の宿 ささゆり庵
- 住所
- 奈良県宇陀市室生深野656
- 入場料
- 宿泊料金 一棟貸し1日1組限定 2名21,000円(1泊朝食付き)~ *季節、利用人数によって変動。予約時要確認 夕食料理は別途、事前にサイト内のcuisine ページから選んでください
- お問い合わせ
- 0745-88-9402