清流沿いに並ぶ、素朴な温泉街の素顔とは?
大峯山系の山々のふもと、名水でも有名な天川村にある洞川(どろがわ)温泉。標高約800mの高地にあり、川沿いに並ぶレトロな旅館や夜に浮かぶ提灯が印象的な温泉街です。
大自然が囲む名湯でリラックス・・・と、日本の温泉旅の神髄を楽しめる場所ですが、洞川温泉は一般的な温泉街とは一線を画すユニークな風土が残っているのが特徴です。
このまちの起源は聖地大峯山(おおみねさん)寺を参拝する修行者の宿場であることにはじまります。山岳宗教の修験道(※1)を開いた役行者(えんのぎょうじゃ)に仕えた、後鬼(ごき)の子孫が起こしたと伝わっています。
邪悪なイメージが多い鬼ですが、洞川温泉を含む奈良南部エリアでは、鬼は神々の使いという善良な存在。春を呼ぶ催し節分は鬼を追い払うのが日本全国の定説ですが、ここ近辺では鬼を福として迎える風習があります。
※1修験道についてはこちらの記事参照

気さくで温かい、笑顔の鬼を訪ねる
修行者が宿泊して、鬼の末裔が滞在する・・・?おどろおどろしいイメージも、宿に到着すると、このアットホームな笑顔に一掃されます。
今回ご紹介するのは<旅館 久保治(くぼじ)>さん。もとは伝統薬・陀羅尼助丸(だらにすけがん)の製造販売から始まり、旅館業は代表の久保達治さん(写真右)で3代目という洞川の地に根差した一家が営む宿です。


洞川温泉には大峯山が開く5月~9月、毎年たくさんの修験者グループが訪れます。洞川に泊まり、宿からの案内人と共に山上へ向かうのが通例です。
「私も大峯山寺のガイド役を長年務めました」と話す達治さん。手にしているのは馴染み客から贈られた鬼のお面です。お参りを終えた修験者は、また翌年の参拝日の予約をする人がほとんどだそう。
どのグループとも家族ぐるみの付き合いで、お土産が届いたり挨拶に出向いたり、代々交流が続いてきました。
はるか昔から参拝の拠点として、修験者を迎え入れ送り出した歴史を持つ洞川温泉。今に受け継がれる温かくオープンなおもてなしは、参拝客だけでなく一般の旅行客へも向けられています。
美味しい料理と快適さが揃う、旅館久保治
夕食は洞川名物の大峯猪ぼたん鍋がイチオシ。地元でも評判の猟師<獣美恵堂奈良(じびえどうなら)>が提供する大峯の自然育ちの猪肉は、他とは一味違う妙味です。
女将さん秘伝の味噌出し汁に軽くくぐらせて味わえば、肉は驚くほど臭みがなく、口いっぱいに広がる脂の甘さときたら・・・!
脇を彩る、山の暮らしの知恵が詰まった品々も滋味深い味わいです。

館内は木のぬくもり溢れ、清々しい雰囲気です。修験者から届いた記念品が飾られるロビーには、さりげなく添えられる季節の花もポイントになっています。
広々とした客室は冬~春にかけては、洞川の風物詩こたつが据えられています。日本の一般家庭ではお馴染みのこたつですが、こうして旅館で登場するのは珍しく、家庭的な雰囲気がたっぷり。全7室の客室には細部まで目が行き届き、快適に過ごせる心遣いが感じられます。


INFORMATION
- 旅館 久保治(くぼじ)
- 住所
- 奈良県吉野郡天川村洞川221
- 入場料
- 1泊夕朝食付き・ぼたん鍋プラン おひとり15,000円~ほか
- お問い合わせ
- 0747-64-0018