古代の奈良で始まった蹴鞠
蹴鞠とは、日本最古の歴史書である『日本書紀(720年)』にその名が現れる伝統的な球技です。 蹴鞠に興じて脱げた中大兄皇子の靴を中臣鎌足が即座に拾い上げたことから2人の親交が深まり「大化の改新」の発端になったという故事にちなんで、談山神社では、毎年4月29日と11月3日に「けまり祭」が行われています。 談山神社のけまり祭では、古代装束をまとった6人から8人の演者が、直径17~18cmほどの鞠を落さないように、「アリ」「ヤ」「オウ」と声をかけながら優雅に蹴りあっていきます。 まるでサッカーのようですが、これは勝ち負けもなくスポーツではありません。相手が蹴りやすいところを狙い、互いに思いやりながら優雅に鞠を送りあい、楽しみを共有する時間なのです。

奈良の伝統行事を守る鞠づくりへの挑戦
けまり祭に欠かせないのが、鹿の皮からできている「鞠」です。 ところが、1950年代を境に鞠の作り手が途絶えるという危機に直面します。行事の先行きの不安を案じた神社側から復元を打診されたのが、現在も蹴鞠を制作している藤田久沙夫さん。 長く皮革業を営んでいたものの、鹿皮を鞠に仕立てるのは一からの挑戦でした。なぜなら、鞠の製法を記した文献は見当たらず、手探りで鞠づくりに取り掛からなければならなかったのです。

ひとつひとつに職人技を入魂
胡粉(ごふん)という貝殻から作られた顔料で仕上げ塗りをされた鞠は、白く丸く美しい姿。中身は空洞ですが、形を整えるために大麦を詰めては、また取り出して形作られているのです。空気が漏れすぎぬよう、うまく跳ねるように試行錯誤を重ねた集大成なのです。 「古代にどんな鞠が使われていたのか誰にも分からないですから、出来具合は自分で厳しく見極め、安易に妥協してはいけないと心に命じました」と藤田さん。 今でも談山神社の庭で演じられる蹴鞠。古刹に似つかわしく映えるこの光景には、ひとつひとつ、丁寧に作られた奈良の職人の魂が込められているのです。
INFORMATION
- 談山神社 けまり祭
- 時間
- 毎年 4月29日 / 11月3日
- 会場
- 談山神社
- 住所
- 奈良県桜井市多武峰319
- 入場料
- 大人600円、小人300円、小学生未満無料
- お問い合わせ
- 0744-49-0001