
コミュニティがホストになる家。
「旅行者への空き部屋の貸し借りサービスの次は、ついに宿?」と世界中で話題になったAirbnbの新しい動き。きっかけは、2016年夏に東京で開催された「HOUSE VISION 2016」でした。
HOUSE VISIONは、家を通して日本の未来を考える場。そこで、新しいホストとゲストの関係を探るAirbnbと建築家の長谷川豪氏が立てたコンセプトは、「コミュニティがホストになる家」。そのモデルケース第一号として誕生したのが、「吉野杉の家」です。
つまり、「吉野杉の家」は展示をして終わりではなく、後に吉野に移築され、Airbnbを通して泊まれる家となり、地域とどのような関係を築いていくのかという実験的なプロジェクトなのです。

ハイグレードな木の空間を体感できる。
こうして、吉野川のほとりに再建された家は、地元の木材関係者による「Re: 吉野と暮らす会」が運営し、2017年2月22日から晴れて宿泊予約を開始。
長い縁側の前の遊歩道は、近所の方々の散歩コース。1階がコミュニティースペース、2階のロフトはプライベート空間で、宿泊者と地元の人のコミュニケーションが生まれやすいつくりになっています。

こちらが、プロジェクトの立役者のうちの3名、吉野町役場の表谷さん(右)、奥出さん(左)と「Re: 吉野と暮らす会」の中心人物である石橋さん(中央)です。

吉野は日本有数の林業・製材業のまちで、吉野杉は全国的にも名高い高級材。しかし近年は、木材の価格、流通共に厳しい時代が続いてきました。
「吉野の植林は500年の歴史を誇り、優良材を生み出す特異なノウハウも持っています。 “木のまち吉野”を改めてアピールするためにも、吉野杉の家は良い契機となりました」と、表谷さん。
吉野杉や檜の香りや肌ざわりを伝える吉野材の魅力発信施設にと、町もプロジェクトを全面バックアップ。吉野杉の家ができたことで、地域活性化にもつながりそうです。


1階が杉、2階が檜で質感の違いが楽しめます。
「地元では床から天井まですべて木で造ることはないので、今までにない空間ができたなと。設計の力ももちろんですが、木が良いからこそできたんじゃないかな」と、3人とも誇らしげ。
実際、この家に入った瞬間にかぐわしい木の香りに包まれ、床や壁に触れるたびに、柔らかく温かみのある、何とも言えない心地よさを感じます。一度その魅力を知ると、吉野の木に惚れ込んでしまうのも当然かもしれません。
ここを拠点に、吉野のまち散策へ。
吉野杉の家に泊まったなら、観光スポットだけではなく、木材工場の集まるエリア「吉野貯木(ちょぼく)」もぜひ訪ねてみてください。木のまち吉野の日常が感じられるはずです。
「吉野の木材産業は、昔気質(かたぎ)。周回遅れで残されてきたものが、今では逆に価値になっています。この伝統を守りつつ、新しい仕組みを作っていきたい」と、吉野中央木材の専務でもある石橋さん。
例えば、目立て室でのこぎりの刃を作るところから職人の仕事が始まると言います。

こういった今まで一般の生活と接点が少なかった林業の世界を、広く知ってもらおうと、まちあるきやイベント、ワークショップなども開催しています。
地域と観光の新しい関係。吉野杉の家が生み出すこれからのムーブメントに、期待はふくらむばかりです。
PROFILE
- 吉野杉の家