
豪商たちが楽しみ育てた地歌舞。谷崎潤一郎の名作「細雪」にも登場
座敷は一畳あればよし。舞う曲ごとに色とりどりに千変万化。舞う者ごとの花が咲き、客の心にも花咲かすーー。
「山村流の流儀の色は白。どんな風にも染めて咲かせて舞うんです」と語るのは、山村流四世宗家の直弟子で、舞踊家の山村若女さん。
創流200余年。江戸時代に大阪で生まれた山村流は、「上方舞四流」の内、もっとも古い流派であり、地歌舞(じうたまい)を主とするもの。豪商たちが楽しみ育てた地歌舞は、当時の流行歌である地歌を伴奏に、座敷で舞う宴の華。神楽や舞楽、能楽や歌舞伎など日本の舞踊の体系から生まれた舞芸術の結晶です。
なかでも山村流地歌舞は「品が第一」。“行儀のよい舞”として、商家の娘さんの花嫁修行の一つとされました。谷崎潤一郎の名作「細雪」でも船場の木綿問屋の四女、妙子が山村流「ゆき」を舞う名場面があります。
座敷ゆえ埃を立てず、たおやかで風雅に。そこには凛と揺らぎない「型」があり、洗練された所作があります。それは日本の美の粋であり、理にかなった自然界の万象を映したものです。

古来よりの美学。茶の湯と同じ空間芸術
演目は舞う会の趣きに合わせ、客が楽しめ、地歌舞の魅力が伝わるようにと選びます。時には薙刀(なぎなた)をふるう勇ましい男舞を舞うことも。
「胆力が要る。肚を据えて、ほんまに人を斬ってます」。
ただし、どこから見ても美しく。それが山村流地歌舞。
型は一つ。その型が決まれば、あとは自然にまかせて色を付け、自在に舞うことができるのです。
「水の流れのようによどみなく舞う」。それが山村流の「水の教え」。
「川の流れも海の波もいくら見てても飽かないでしょ。自然のものってくやしいくらいに飽かないんです。わたしの憧れです」。そして要らぬものを削ぎ落とした所作は、古来より日本人が持つ美学。
「茶の湯とも同じ。空間芸術です」。

文化発祥の地、奈良から世界へ。地歌舞の魅力を世に広めたい
1997年にはフランスで開催された「日本文化フェスティバル」に出演。「外国人に理解してもらえるやろか」。そんな心配は杞憂でした。熱い注目を浴び、賞賛を受け、その後、2度に渡って招待を受けることに。
自身も舞いながら、「日本を舞っている」という初の感覚を体験。日本人であることに身の隅々まで感謝して、ふるさとの美と心を舞いました。
そして今。奈良から世界へ、地歌舞を広めたいと願います。古都奈良は日本文化の発祥・揺籃(ようらん)の地。この地から再び舞文化を発信したい。地歌舞を広め、次代につないで、奈良から世界へ。
しかしその根底には、実はもっと切実な、熱い思いがたぎります。
「満足なんて、ちっともしてません」。
絵を見ても音を聞いても、何をしても舞を定点に生き、今もこれからもそう。もっと上手くなりたい。それが何よりの本心だから、今日も舞い、明日も舞い、充実の時を迎えて「まだまだや、これからや、水の流れのように美しく」と舞い続けます。

PROFILE

- 山村若女(やまむらわかめ)
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1960年生まれ。奈良、大阪、東京に稽古場があり、6つの舞の会を持つ。多くの社寺に舞踊を奉納し、舞のイベントにも精力的に出演。若手の育成にも力を注ぎ、娘の若端さんも2歳で山村流に入門。15歳で名取りとなり、次代を継ぐ期待の星に。