
「これを聴かずに死ねるか!」「店の歴史29年を賭けてでも薦めます!」
「コレ、死ぬほどすごいです!」「絶対買うべき!」。店内に所狭しと積まれたCD、レコードにはどれも激アツなコメントカードが。熱情ほとばしるコメントが評判となり、雑誌やテレビで名盤紹介コーナーを持ったことも。
音楽への深い愛ゆえ、海外アーティストのインタビューを雑誌に依頼されたこともあったそう。欧米でも活躍するミュージシャン、Corneliusの小山田圭吾が「奈良にヤバいレコ屋がある」とラジオで語り、とある音楽ライターは「音楽不況の中で生き抜く奇跡のレコード屋」と発信。
その「ジャンゴ」の店主、松田太郎さんは、独特のTwitterコメントでも注目を集めています。「これは発売自体が貴重!絶対にお見逃しなく。長年のファンからすれば“タダも同然”!!」。日々、熱くどしどしツイート。想いはいつもあふれんばかり。
その背景にはCDがまったく売れない音楽業界の現実があります。1日中お客が来ない日もあり、店の前の通りには人影なし。「このままCDが消えてなくなるのか?」。絶望的な状況のなかで、Twitterから「音楽を愛する人につながれ」と発信しているのです。

「奇跡のレコード屋と呼ばれても、危機的状況に変わりはありません。でもこの店からできる限り発信したい。この店で、愛する音楽と、人と、つながっていたいのです」
そう真剣な眼差しで語る松田さんが独立したのは、まだ世界的にCDが売れていた1987年。流行には一切目もくれず、自分が好きなアーティストのCD、愛する音楽だけを紹介し続けてきました。
その姿勢は一貫しており、「最古のセレクトショップ」と評されるいまもブレずに変わりません。日本中、いや世界中からCDショップが姿を消していくなか、奇跡的に生き残り続ける孤高のお店と言ってしまってもいいかもしれません。

来日アーティストを興奮させる日本のレコード屋事情。奇跡の店ジャンゴは穴場的存在!?
日本を代表する古都、観光地である奈良だけあって、閑散とした日々であっても週に1、2人は外国からの観光客の方が訪れます。YouTubeによって、日本のポップミュージックを楽しんでいる外国の人も多く、ソフィア・コッポラ監督の映画『ロスト・イン・トランスレーション』で楽曲が使われた日本のロックバンド、はっぴいえんどのレコードを探す人も。日本盤にしか付属しない「帯」も魅力の一つのようです。
「外国からのお客さんで『帯狙い』の方、結構いますよ。帯つきのThe Beatlesの日本盤が欲しいとか。『横浜銀蝿』みたいに、漢字表記のロックバンドのレコードジャケットが欲しいとか」
先日、店を訪れたフランス人の若いカップルは、フランス人アーティストの日本盤CDを大量に買っていったそう。理由は「フランスでは売っていないから」。本国で廃盤になったものもあれば、そもそも日本でしかCD化されなかったものも。
「なぜ本国で発売されなかったものが日本で発売されることになったのか、はっきりわかりませんが、日本人はCDが好きだからというのはあると思います。じつはこの危機的状況にあってなお、日本は世界で一番CDが売れ、CDショップが残っている国なんです」
と松田さん。
「日本人にはレコードコレクターが多いからでしょうか。じつは世界中からレコードが一番集まっている国も日本なんです。マーケットとしていまのところ成り立っているようですね」
たしかに海外の有名アーティストが来日した際、日本のレコード屋で興奮して爆買いしたというニュースを時々耳にしますが、その日本で奇跡のレコード屋と言われるジャンゴは世界でも穴場的存在かもしれません。


まずは店主に話しかけて。新しい音楽との出会いが待っている
店に置かれているCDやレコードは、邦楽も洋楽もジャンルはさまざま。古いものも、新しいものも、店主が愛する音楽だけが並びます。取材中、ふと目に止まった1枚は、ドイツのクラブジャズ集団Jazzanovaが2002年に発売した名盤『In Between』の特別限定仕様盤。立体的な仕掛け絵がアーティストの遊び心とともに飛び出します。
「面白いでしょ! CDだからモノの魅力も楽しめます」

店を訪れた際は、とにかく店主に話しかけてみること。「今日の大推薦盤は?」と聞いてみたところ、「それより何が聴きたいか? どんな音楽に触れたいか? まずはそこから」との答え。店主の深い音楽愛から、ぴったりの1枚を探してくれることでしょう。
ジャンゴのおかげで「音楽の世界の扉が開いた」「音楽観が形成された」と多くの人が語る、生ける伝説のようなお店。あなたと音楽の新しい出会いが待っているかもしれません。

PROFILE
- ジャンゴ